建築パース プロへのインタビュー
建築パース業に携わる方に制作の極意、テクニックを聞く「建築パース プロへのインタビュー」。
岡山で建築パース作成業をされている建築パース工房 デザインマシロのMasiro Hayaseさんに話を伺いました。
- プロフィール
- 建築パース工房 デザインマシロ Masiro Hayaseさん
- 建築パース制作・建築プレゼンテーション歴:20年
- 使用ソフトウェア:CINEMA 4D、Shade
- ホームページ:建築パース工房 デザインマシロ/作品集/Facebookページ
- まずMasiroさんの日々のお仕事について教えてください。
- 完成予想図としての建築パース作成、プレゼンテーション業務を中心に、プロポーザルコンペ・デザインコンペなどの業務協力、工業系専門学校の建築系学科で2DCAD・3DCADを活用した基礎実習、コンペ指導などをおこなう講師をしております。
- 建築パース作成のお仕事を始めたきっかけを教えてください。
- 大学では建築を学んでいて、将来は設計の仕事に就きたいと思っていました。大学生の頃に、鉛筆ドローイングやエアブラシを使用して作成された建築画や模型などの建築プレゼンテーションを見たのをきっかけに建築パースに興味を持つようになりました。
- 大学卒業後は、設計に携わる仕事に就いたのですか。
- 大学生の頃は設計事務所でのオープンデスクに参加しておりましたが、卒業後は助手として大学に残りました。その後、建築系の専門学校でCG・CADを教える講師をしていましたが、自分の建築パースがビジネスとして通用するのか試してみようと思い、デザインマシロを立ち上げました。
- 以前から建築や絵に興味をもっていたのですか。
- いえ、実は高校生の頃はケーキが大好きでパティシエになりたいと思っていました。ですが、当時は進路先として進むのは難しく、大学進学をすすめられたこともあり、ケーキに近いものが何かを考えて建築を学ぼうと思いました。昔からモノづくりは大好きでしたね。
- ケーキから建築ですか?!
- ケーキはおいしそうに見えないと買ってもらえないですし、色鮮やかだと楽しくなりますよね。建築にも同じことを感じました。それを満たすための美しさ、機能性などの共通点から、建築に興味を持つようになりました。
- おもしろい発想ですね!周りの方もびっくりされたのではないでしょうか。
- ええ、変な奴やなとはよく言われます(笑)。
- それでは、次にMasiroさんのお仕事の内容について伺います。
- どのようなテイストの建築パースを描くのですか。
- Shade、CINEMA 4Dを使って、フォトリアルな建築パースを描いています。デザインマシロの建築パースの特徴として、CGだけどその場所の空気を感じとってもらえるような建築パースになることを意識して描いています。私は建築パースを1枚の切り取られた風景と考えて、構図、空気感、芸術性、コンセプト、色合いなどを大事にして作成しています。
- 具体的にはどのようなイメージでしょうか。
- 白を基調色とし、間接光による柔らかい光と影、写真のいわゆるピンボケしたような表現や空気感といった、CGではなかなか表現が難しいところまで出せるパースを表現したいと思っています。
- リアルさを表現するには、制作が大変じゃないかと思いますが、建築パースの制作はどのような体制でおこなっているのですか。
- デザインマシロはSOHOになります。個人で制作していますと効率のいいワークフローにするのがなかなか難しいですね。ついつい夜型になりがちですが、最近は早朝のほうが制作効率がよいため集中できる時間を大事にしております。後は、いかに効率的に制作していくのかを常に試行錯誤しております。
- お一人で建築パースの制作をされているのですね。ということは、建築パースの制作だけでなく営業活動もご自身でおこなっているのですか。
- 実は、純粋な営業活動はほとんどしたことがありません。多くの仕事は、ホームページから依頼をいただいています。ホームページで掲載している建築パースを気に入っていただいて、ご連絡いただくことが多いです。
- ホームページが営業マンというわけですね。
- デザインマシロを立ち上げてすぐは、ほとんど仕事はありませんでした。ですので、1年目はデザインマシロを知ってもらうための活動に費やしました。制作した建築パースを見てもらうためにホームページを開設したのですが、仕事として制作した実績がないのでホームページに掲載できる建築パースはあまりありませんでした。そのため、数日営業活動をおこない、少しずついただいたお仕事で作成した建築パースをホームページに掲載しました。
- 建築パースを掲載してからは、ホームページのアクセスは増えましたか。
- いえいえ、ホームページを開設しただけでは当然見てもらうことはありませんでした。多くの方に知ってもらうために独学でSEO(※)の勉強をして、ホームページを見つけてもらうための対策をしました。結果、ホームページへのアクセスが増えたことで、建築パースを見てご依頼をいただけるようになりました。
※検索サイト(GoogleやYahoo!など)での検索順位を上位に表示されるようにすること。
- SEOのチカラはすごいですね。
- ホームページのかっこよさや出来も大事かもしれませんが、とにかく建築パースを見てもらわないと始まりませんので、ホームページを見てもらうことに注力しました。もちろん、ホームページを見ていただいただけではだめですので、ご依頼いただけるように、そしてクライアントに満足していただけるように、常にもっとよい建築パースの表現ができるように努力しています。
- ホームページから依頼を受け付けていると依頼は全国からあるのですか。
- 岡山だけでなく、東京や大阪からも依頼はあります。海外からの依頼も何件かありました。ただ、基本的にはできるだけクライアントとお会いしてご要望を伺うようにしています。電話やメールだけだと、どうしても情報伝達力が下がってしまいます。クライアントの顔を見てお話を伺うとスムーズに仕事が進みますね。
- ホームページ以外から仕事の依頼を受けることはあるのですか。
- CGのコンテストやコンペで賞を頂いたことがきっかけでTwitterから仕事の依頼がありました。Facebookでは同業の方から仕事をいただいたことがあります。また、異業種交流会に参加した際に建築パースを見てもらい、仕事の依頼をいただくこともあります。
- 最初のお仕事で制作したのは、どのような建築パースだったのですか。
- はじめて依頼いただいたのが、結婚式場の建築パースでした。とても苦労したのを覚えています。披露宴会場のテーブルの上や教会内など、細かな修正変更指示があり大変でした。外観、内観計8枚あり、完成まで1ヶ月ほどかかりました。
- それは大変でしたね。初めての仕事で建築パース制作について分かったことはありますか。
- 仕事として建築パース制作をするまでは、自分で考えたものを建築パースにしたり、プレゼンテーションしたりしていたのですが、他の方が考えていることを図面から建築パースに起こすということは、なかなか難しいことだと気付かされました。建築パースを制作する技術的な問題点よりも設計者やクライアントとの情報共有、伝達、理解の大切さを学びました。
- ホームページに掲載されている建築パース作品を見ると結婚式場以外では、病院や福祉施設の建築パースが多いようですね。
- 病院や福祉施設の建築パースについては、意識して引き受けているのではなくて、設計事務所などで福祉施設や病院の仕事が増えてきているのだと思います。来年はまた違う建築パースを描いているかもしれません。最近は学校関係の依頼が多くなってきています。
ただ、ホームページで掲載している建築パースがすべての実績ではなくて、載せていない建築パースもあるんですよ。
- とても興味があります!
- 載せていないというより載せてはいけないと言ったほうが正しいですが。残念ながらお見せできないのですが、例えば、某病院のリフォーム案件では、施主が○○○○な方でしたので、クライアントからの要望で、◇◇◇◇な▽▽▽▽や☆☆☆☆な△△△△を使った□□□□の建築パースを描きました。施主の方には大変喜んでいただけました。結果、成約につながりました!
※編集部注:都合により一部内容を伏字にしております。 - 建築パースが依頼主の心を掴んだのですね!
- 建築パースで大事なことは、クライアントの方にいかに気に入っていただけるかに尽きると思います。また、クライアントにとって建築パースはあくまで1枚の絵に過ぎませんので、その仕事でもっとも効果的な建築パースを作成することを心がけています。クライアントのご意向、ニーズをいかに把握するかということを大切にしています。
最近、こども園のパンフレットで使う建築パースを描いたのですが、このパンフレットを見た人が「ここに入園したい!」と思ってもらわないといけませんから。
- 建築パースは、とても重要な役割を果たしているのですね。
それでは、最後にこれから建築パースの作成を始めようと思っている方にアドバイスをお願いします。 - 建築パース作成は、日常的にモノを見ることからはじまると思います。とてもシンプルですが、重たいものを重たく、軽いものを軽く表現することや影のつけ方、添景によって見栄えは変わってきます。
また、依頼主がどういう目的で建築パースを活用するのかを理解して情報を共有することが最も重要なことかもしれないですね。建築パースはわかりにくいものをわかりやすくするひとつの手段です。建築物というストーリーを伝えることができればいいですね。ついついCGソフトに使われてしまいがちですが、一枚の絵で何を表現すればいいのかを日々思考し妄想しております。
共にがんばりましょう! - ありがとうございました。(H.T.)
ページ公開日:2012年6月25日