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建築パース プロへのインタビュー


建築パース業に携わる方に制作の極意、テクニックを聞く「建築パース プロへのインタビュー」。
第1回は、大阪で建築パース作成業をされている有限会社コル・アート・オフィスの西口浩英さんに話を伺いました。

第1回 有限会社コル・アート・オフィス 代表 西口浩英さん

プロフィール
有限会社コル・アート・オフィス 代表 西口浩英さん
(JARA 日本アーキテクチュラル・レンダラーズ協会会員)
まず西口さんの日々のお仕事について教えてください。
広告やパンフレットで使用する戸建て住宅パースやマンションパース、設計事務所やゼネコンのプレゼン・コンペ用の建築パースを主に描いています。CGから手描きまでクライアントの要望にあわせてさまざまなテイストの建築パースを描きます。
建築パース作成のお仕事を始めたきっかけを教えてください。
姉の友達でインテリアデザインの仕事をしている人がいて、その人から「パース」という絵を描く仕事があることを知り、興味を持つようになりました。その後、インテリアを学ぶために専門学校に通い、建築パースの授業の中で描く楽しさを知り、これを仕事にしようと思いました。今思うと小学生の頃から絵を描くことが好きで、そのころからなんとなく「絵を描く仕事」ができればいいなあと思っていました。
専門学校卒業後は、どういう会社に就職されたのですか。
卒業後は、建築パース製作事務所に就職しました。当時は3DCGパースというのはなく、すべて建築パースは手描きでした。ちょうどエアブラシを使ってリアルなパースを描く手法が出てきた頃です。新人は、はじめから建築パースを描くことはできず、まずは下描きの作業をひたすら行います。着色の作業を行えるようになっても、できるのは他の人が描いたパースの修正作業のみでした。
下描き、着色の作業は、はじめにしっかり身につけないといけない建築パースの基礎なのですね。実際にパースの描き方を教わったのは、いつごろからですか。
その会社では、パースの描き方を教えることはしていませんでしたので、自分で身につけないといけませんでした。先輩や上司が描いているのを後ろから見て描き方を真似しながら身につけていきました。
それでしたら、自身でパースを描くことはなかなかできなかったのではないでしょうか。
その会社では、建物の絵はベテランの社員が描いていましたし、樹木、人物などの添景を最後に描き入れる作業も、すべて社長が行っていました。一番はじめに構図を決めるのが大変難しく、建物や添景の出来がよくても、全体のバランスが悪くなり、パースが台無しになってしまいます。また、添景は、パースの最後の仕上げの作業でもあり、添景の描き込みで出来栄えが大きく左右されるため、何十年もずっと添景を描いている経験がある社長でないと行えませんでした。直接原画パースに添景を書き込むため、熟練した技術が必要でした。社長の机には、出来上がった樹木待ちのパースがいつも山積みでした。
手描きですとパソコンのようにアンドゥできないですから、集中力が必要ですね。
原画に直接書き込むので、消したり、移動したりは簡単にはできません。添景は大きさや位置などのバランスが大事なので、とても気を使う作業です。修正は避けたいですが、やはり修正はしないといけない時があります。添景を消すには、添景のない状態に描き直しをする作業を行わないといけませんでした。ですが、その後透明のシールに添景を描く手法を取り入れるようになりました。添景をシールにすることで移動したり、外したりを簡単に行えるようになりました。今ですと、こういった作業はすべてAdobe Photoshopで行えますが、まさにPhotoshopのレイヤーと同じですね。この手法を用いてから、社長は添景素材を書き溜めていくことができるようになり、効率よくなりました。
一人ですべて仕上げるまでに大変な努力が必要なのですね。西口さんは、樹木を描くパースの仕上げまで行うようになったのは、いつごろからですか。
この会社では、3年間みっちり下書き、着色の作業を行いました。それからは建築パースを一人で仕上げることができるようになりました。その後、別の会社を経て、独立して現在の会社コル・アート・オフィスを起こしました。
それでは、次に西口さんのお仕事について伺いたいと思います。
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コル・アート・オフィス 事務所内

コル・アート・オフィス 事務所内

どのような環境で仕事をされているのか教えてください。
私は、CGソフトはCINEMA4Dを使っています。他のスタッフは、3dsMAXやformZなど各自が使いやすいものを使っています。ただ私自身はモデリングの作業はほとんど行わず、基本的にはスタッフが行います。できあがったCGパースに添景の合成や仕上げの加工の作業が大半になります。Adobe Photoshopで行っています。
どういうテイストのパースを描くことが多いですか。
3DCGのみのパース、手描きのみのパースだけでなく、CGに手描きのエッセンスを取り入れて温かさを感じさせるパースなども描きます。水彩画やラフスケッチパースを描くこともあります。ハウスメーカーのカタログ用では、フォトリアルなパースにしたり、広告では桜の花びらを飛ばしたり、建物に照明をあてたりして、ドラマチックな演出をすることもあります。クライアントが求めるテイストはさまざまですので、用途に合わせて手法、表現を変えています。
花びらが舞っている建築パースは広告などで見たことがあります。クライアントの要望とはいえ、演出をすると実際の建物とイメージが違ってしまうことはないでしょうか。
使われる用途によりますが、建築パースは建設予定の建物やその建物周辺の景観が、どのような雰囲気になるのかを 知ってもらうということもありますので、事実と異なる絵にはならないように気をつけています。
例えば、どのようなことでしょうか。
昔、クライアントからの要望だったのですが、建設予定地周辺にある電信柱や看板などをパースから消して、パースを「絵」として仕上げるということが行われた場合など、事実と異なってしまい、物件を購入される方から苦情などがくるようになりました。ですので、実際に存在するものはパース上で表現し、建物だけでなく現地の雰囲気もパースで知ってもらうようにしています。クライアントのチェックも大変厳しいですし…。
建築パースを描く際は、現地を確認するのですか。
建築パースを製作する際は、実際に現場に行って周辺環境を確認しています。遠かったり、時間の都合が付かなかったりする場合は、Google EarthやGoogleマップのストリートビューで確認することもあります。便利になりましたね。「絵」としての演出は、それをしっかり押さえた上でイメージが違ってしまわない事に気をつけながら行っています。
他に建築パースを作成する際に気をつけることはありますか。
建物の色は印象に大きく影響しますので、実際に建つ建物と色に違いが出ないように気をつけています。外壁材の建築パース用素材を作成する際は、クライアント・設計事務所から外壁材の現物をお借りして、色の確認を行っています。現物をスキャンして素材を作成することもあります。ですが、実際には同じ商品でも色が少しずつ違っているんです。焼く釜が違うとどうしてもタイルの色が少しずつ違ってくるのだそうです。ですので、クライアントに色の最終確認をしていただいたり、製品カタログがあれば掲載写真を見て色の微調整をするようにしています。
同じ商品でも色が違うと色の調整は大変ですね。色については、モニターで見たときの色と印刷したときの色の違いがありますが、どのように調整を行っているのでしょうか。
パースのデータと出力したものを両方納品する際は、色調整用の出力専用PCを使って色を合わせています。昔は、モニターと出力したものとの色の違いはシビアで、できるだけ近づけるように調整していましたが、今は、色を合わせることが難しいことは、クライアントの方も解っていただけていますので、それほどシビアではなくなっています。
それでは、次に建築パースに使用する素材について伺いたいと思います。
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建物に配置されている家具はどのようにして決めているのでしょうか。具体的に指定があるのでしょうか。
クライアントの要望を聞き、インテリアのイメージにあった家具を弊社で選んで配置しています。どのような家具を配置するかは任せていただけることが多いですが、クライアントの中には、具体的な商品を指定されることがあります。そういう場合は、特注品だったり、見かけない商品だったりするので、大抵手元に素材がありません。
必要な素材がない場合はどのようにしているのですか。
3Dデータやテクスチャをダウンロード・利用することができるサイト(※)があって、そこから探して、イメージに近い素材を使うことがあります。サイトでも素材がない場合は、比較的簡単な形状の素材でしたらスタッフがモデリングをして作成します。直線的な形状のモデリングは得意なのですが、ソファや自動車など曲面があるものや、ファブリックなど柔らかい材質のものだと作るのが難しくなります。ですので制作できるスタッフが限られてしまうんです。

※「Archive3d.net

素材のモデリングは大変なんですね。
モデリングが得意であっても複雑なものをつくるとどうしても時間がかかってしまいます。また、モデリングはできてもパースの納期が迫ってきていると素材のモデリングに時間を割けないこともあります。そういう時は、写真を加工して合成させることがあります。写真は、家具以外でも空などの背景用や植物の添景としてよく使用します。

建築パース素材用に撮影した風景写真

建築パース素材用に撮影した風景写真

写真素材は、どのような方法で収集を行っているのですか。
市販されている素材を使用することもありますが、大抵は、自分で撮影した写真を使っています。外出時に使えそうな空や景色に遭遇したら、写真に収めています。植物の素材も同じで、公園を通りかかったら、樹木の写真を撮っています。いつめぐり合えるか分かりませんから、外を歩いているときは常にカメラを持ち歩いています。それにいつ使うことになるか分かりませんから、使う機会があるかどうか分からなくても、とりあえず写真に撮るようにしています。
例えばどういう写真ですか。
商業施設付きマンションのコンペ用パースを描いた際に、比較的広い公開空地(オープンスペース)を描く必要があったのですが、納期の関係でモデリングすることはできなかったので、ひらかたパークの観覧車から撮影した敷地内の写真や大阪市内の街並み写真を加工して使いました。製作時間がほとんどとれなかったので、写真を撮っておいて本当に助かりました。ちなみにそのマンションは、中国に建つ予定です。パース上で小さいものや全体のイメージに近いものがあれば、精巧なモデリングデータを使うより写真を使うほうが短時間で作成できて効果的です。
建築パースにはさまざまな素材が必要ですね。最後に、これから建築パースの作成を始めようと思っている方にアドバイスをお願いします。
パースを描く前に決めないといけないのが、「建物を最も魅力的に魅せるアングルと構図」です。次に「完成したときのイメージ作り」が重要になります。構図を決めるのはとても難しく、長年の経験が必要になりますが、言えることは、描く建物をよく知ることと建物以外の余白を広く取ることです。建物以外を描くことは時間がかかるので、省略しがちですが、道路に車や植裁を追加したり、周辺の景観を表現したりと余白があるとパース全体のバランスを取りやすくなります。これは最初に勤めた会社で教わったのですが、外を歩くときは、いろいろな建物をいろいろな角度から見てどのように見えるのかを観察するようにするとアングルと構図の力がつきます。また、窓への風景の写り込み方や影の落ち方などの表現方法の勉強にもなります。よい建築パースを描くには、描く建物をよく知ることが大事です。そうすると建物を魅力的に魅せるにはどうすればいいか分かってきます。
ありがとうございました。

ページ公開日:2011年7月20日